歯を失う原因第1位…歯周病(歯槽膿漏)
手遅れになる前にしっかりとした治療・予防をはじめませんか?
世界で最も多くの人が患っている病気が「歯周病」という事実はご存知ですか? 私たちは歯周病のリスクと隣り合わせで生きています。
初期段階の歯周病は、自覚症状が表れにくいです。痛みもなく、食事も問題ありませんが、静かに進行していきます。
自覚症状が表れる頃には、残念ながら末期状態になっている場合が多いです。硬いものが食べづらい、歯がぐらつく、歯ぐきが腫れあがる、歯が長くなったなど…こういった症状が出てきたら、すでに骨は溶けはじめています。最悪の場合は、歯が抜け落ちてしまう厄介な病気です。
また、歯周病はお口の問題だけに留まらず、全身の病気に影響を及ぼすリスクをはらんでいます。誰しもが歯周病にかかる可能性があるので、他の病気に与える影響も覚えておいて損はありません。
歯周病治療における三大治療は「早期発見」「早期治療」「定期的なメンテナンス」です。日常生活でのセルフケアや、歯科医院で行うメンテナンスは、歯周病予防に絶大な効果をもたらします。
歯周病が引き起こすさまざまな問題と対処法を知っていただきたいと思います。
歯周病は、歯を支える歯周組織の炎症により発生する病気です。歯周ポケット(歯と歯ぐきの間)から歯周病細菌が侵入し、炎症の原因となる毒素を作りだします。細菌の繁殖が進むと骨を少しずつ溶かし、重症化すると最終的に歯が抜け落ちてしまいます。 有病率は非常に高く、歯周組織が「健全な状態」と判断される日本人は2割にも満たないデータがあるほどです[*1]。誰でも歯周病になるリスクがあることは、容易に想像していただけると思います。
歯周病の原因は、歯周ポケットに溜まった歯垢(プラーク)に含まれる細菌です。歯垢はお口の中に生息する300~500の細菌が作り出すネバネバとした物質です。これはブラッシング不足や砂糖の過剰摂取によって作られます。歯垢1mgの中には、およそ10億個の細菌が住み着くと言われています。その細菌がむし歯や歯周病を引き起こすのです。
歯垢を放置すると、歯石と呼ばれる硬い物質に変化します。歯石の内部や周囲は細菌にまみれています。取り除かなければ、歯周病を進行させる毒素を出し続けます。
歯石は歯の表面にとても強く付着してしまうため、ブラッシングでは取り除くことができません。自然に治ることはないので、歯科医院での除去が必要になります。
歯周病は、歯ぐきが炎症を起こしている初期段階の 「歯肉炎」と、歯が溶けはじめる「歯周炎」の総称です。
腹痛や頭痛のような「痛みのサイン」がすぐに表れることはありませんが、症状は徐々に悪化していきます。静かに進行することから「サイレントキラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれます。歯周病の進行プロセスは次の通りです。
歯周病が重症化すると、歯が抜け落ちてしまいます。自分の歯を失うのはとてもつらいものです。さらに歯周病は、他の病気にも悪い影響を及ぼすことが分かっています。具体的にどういう病気に悪い影響を与えるのか、一部取り上げてみます。
動脈硬化は、血管が硬くなる病気です。血管が狭くなったりふさがったりすると、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる重大な病気につながる可能性があります。
動脈硬化はストレス、タバコやアルコール、加齢といった典型的な要因のほか、歯周病細菌の感染が影響を及ぼすという指摘もあります。簡単に説明すると「歯周病細菌が歯肉から血管に入り込むと血管が炎症を起こし、その結果、血液のめぐりを悪くする」というメカニズムです。
歯周病を患っている人と患っていない人を比較した場合、前者の方が2.8倍ほど脳梗塞になりやすいと言われています[*2]。
糖尿病は、血糖値の高い状態が慢性的に続く病気です。高血糖の状態を放置していると、失明や、足のえそにつながる可能性があります。えそに至ってしまうと、足を切断しなければならない場合も少なくありません。
糖尿病を患っている人は、歯周病も患っている割合が高いことが分かっています。歯周病細菌が血管に入り込むと、血糖値を下げるインスリンというホルモンの分泌を妨げます。すると血糖コントロールができなくなり、血糖値は上昇します。それと同時に歯周病も進行していくので、負の連鎖が続いてしまいます。
すでに糖尿病を患っている人が歯周病を見過ごせないことは明白ですが、非糖尿病者も無関係ではいられません。歯周病は血糖管理に影響を及ぼすことから、糖尿病の発症に発展する可能性も示されています。歯周病を患っている人と患っていない人を比較した場合、前者の方が2倍ほど糖尿病の有病率が高いデータがあります[*3]。
妊婦さんが歯周病を患っていると、胎児発育不全や早産につながるリスクが高くなります。
胎児発育不全は、胎児が正常の発育よりも小さい状態です。正常な胎児と比べると、低体重出産や流産につながることもあります。
胎児発育不全や早産のリスクが増加する原因として、歯周病細菌が子宮に感染してしまうことが指摘されています。
妊娠中はホルモンバランスが変化するため、妊娠していないときよりも歯周病にかかりやすい状態です。妊娠中に行える治療は限定的になってしまうので、特に注意が必要です。妊婦さんのお口の状態が、赤ちゃんにリスクを与えます。当院は未来のお母さんと、赤ちゃんの健康としっかり向き合いたいと考えております。
歯周病は自覚症状が表れにくい病気です。例えば、歯磨きで出血があったとしても、痛みのない場合がほとんどです。
このとき違和感を持つ人と、持たない人とでは、後々大きな違いを生みます。
「歯周病かもしれない」と判断できる正しい知識を持っていれば、早期発見・早期治療につなげることができます。
セルフチェック項目をまとめましたので、ぜひ確認してみてください。
このような症状がある方は、速やかに歯科医院の受診をおすすめします。
重症化させないためにも、早め早めの対応を心がけていただきたいと思います。
歯周病の進行を抑えるためには、早期発見・早期治療が大切です。そこで当院では、予防をメインとした歯周病治療を行っています。
初期・中期に基本治療を行うこと、そして治療後はしっかりとメンテナンスを継続していくことが重要です。
進行状態が重度の患者さまには専門医をご紹介し、適切な治療を受けていただきます。
歯周病の基本治療とは、歯周病の進行具合に関わらず、最初に行われるべき治療のことを指します。
歯周病の原因である歯垢や歯石の除去、グラグラする歯の噛み合わせ調整や、歯の根の表面を滑らかにする治療を行います。
参考文献
[*1]:一般社団法人 日本口腔衛生学会 編 平成23年歯科疾患実態調査報告 口腔保健協会, 2013.
[*2]:日本臨床歯周病学会「歯周病が全身に及ぼす影響」
[*3]:Soskonle WA,Klinger A:The Relationship Between Periodontal Diseases and Diabetes:An Overview.Ann Periodontol 6:91-98,2001(一般社団法人 日本糖尿病学会編集「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」)