歯磨き粉はいらない? 歯磨き粉を使わないメリット・デメリットと口内ケアで大切なこと

こんにちは、秋田のハピネス歯科クリニック 大久保です。
皆さんは、歯磨きをするときに歯磨き粉を使うかどうかを悩むことがありますか?
ほとんどの人は悩まずに歯磨き粉を使っていますよね。子供の頃からの習慣で使う人が大半でしょうし、歯磨き粉のパッケージに書いてある機能が欲しくて使っている人もいるでしょう。
しかし世の中には歯磨き粉は不要だという意見があります。ではどんな理由からそのように言うのでしょうか。
ここでは歯磨き粉はいらないものなのか、そう言われている理由や歯磨き粉を使わないことのメリット・デメリット、歯磨き粉を使うかどうかでよくあるQ&Aなどを紹介します。
歯磨き粉はいらない? まずは磨き方に注意してみよう
歯磨き粉がいらないと述べている世の中の記事やコメントには、歯のプロである歯科医や歯科衛生士が書いたものであることが多数です。そのため、プロがそう言っているのだから歯磨き粉は不要なのだろうと使わなくなる人もいます。
しかし結論から言えば、歯磨き粉はあってもなくてもどちらでも構いません。大切なことは歯磨きを使う・使わないということではなく、正しく歯磨きができているかどうか。
歯科や歯科衛生士による「歯磨き粉は使っていない」という意見は、そもそも歯を正しくしっかりケアできる人たちだからと言えます。
歯磨き粉はどんなものでも、使いたければ使って構いません。薬剤の効能も得られるうえ、爽快感などが味わえます。
しかし正しい磨き方ができているかどうかを意識するようにしましょう。口内トラブルを未然に防ぐには、どれだけ歯の汚れをきれいに、物理的に掃除できるかにかかっています。
歯磨き粉を使わないことによるメリット4つ

ではまず、歯磨き粉を使わないことによるメリット4つをみていきましょう。メリットは以下の4つです。
- ・泡に誤魔化されず真剣に磨ける
- ・刺激が少ない
- ・経済的
- ・歯の表面が削られない
泡に誤魔化されず真剣に磨ける
商品にもよりますが、多くの歯磨き粉はつけて磨くと泡がたくさん立ち、爽快感が得られますよね。これは歯磨き粉の中に発泡剤や爽快感を与えるための成分が配合されているからです。
泡立ちがよいため歯磨きを始めてすぐに口の中が泡でいっぱいになり、まだ汚れが残っていても磨けたような気になってしまうのですね。しかし、この泡はあくまで使用感を高めるためのもので、汚れを落とす効果はありません。
歯磨き粉を使わなければ、そのように泡立つことがないため、泡に惑わされずに歯ブラシの毛先で歯をしっかりと磨けます。
刺激が少ない
市販の多くの歯磨き粉には、爽快感を出すためのミントなどの香料や、発泡剤、清涼剤が含まれています。それが好きという方もいますが、人によっては刺激として受け取り、口の中がしみてつらいこともあるでしょう。
特に、知覚過敏で歯がしみやすい方や、口内炎ができやすい方、味覚が敏感な方にとっては、歯磨き粉の刺激が負担になることも少なくありません。
歯磨き粉を使わなければそのような刺激はほとんどないため、ゆっくりしっかり磨けます。
経済的
家庭によって使用量は変わりますが、歯磨き粉を買わないと出費を抑えられます。歯磨き粉は100円ショップで買えるものから何千円もする高価な商品までありますが、少しでもよいものをと買っていると家計にとっては負担になるでしょう。
歯磨き粉を一切使わなくなると、その分を歯ブラシやデンタルフロスなど、より効果的な清掃アイテムに充てられるようになりますし、食費など、他の項目にも回せますよ。
歯の表面が削られない
多くの歯磨き粉にはステイン(着色汚れ)を落とす目的で研磨剤が含まれています。研磨剤は歯の表面を削るものであるため、過度なブラッシングや粒の大きな研磨剤によって歯の表面が少しずつ削られてしまうリスクがあるのです。
もちろん研磨剤が入っていない歯磨き粉も販売されていますし、そもそもゴシゴシと力を入れて磨けば、歯ブラシだけでも歯や歯ぐきは痛みます。
エナメル質は、歯を外部の刺激から守る大切な層です。これが削られると、その下の象牙質が露出し、知覚過敏の原因になったり、かえって汚れがつきやすくなったりします。特に、歯周病などで歯茎が下がって歯の根元が露出している方は、エナメル質よりも柔らかい象牙質を傷つけやすいため注意しなければなりません。
歯磨き粉を使わなければ、この心配はなくなります。
歯磨き粉を使わないことによるデメリット5つ

歯磨き粉を使わないことには多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。ここでは、見過ごせない4つのデメリットを詳しく見ていきましょう。
- ・プラーク(歯垢)除去率が落ちる
- ・歯磨き粉の薬剤効果を得られない
- ・歯の着色が落ちない
- ・口臭対策ができない
- ・殺菌・抗炎症成分が不足する
プラーク(歯垢)除去率が落ちる
ライオン歯科衛生研究所によると、歯磨き剤の効果として「効率よくプラーク(歯垢)を除去する」「プラーク(歯垢)をつきにくくする」があります。
歯磨き粉をつけて磨いた場合とつけずに磨いた場合では、歯磨き粉をつけた方がより歯垢除去率が上がっていました。つまり、歯磨き粉をつける方が効率よくプラークを除去できるということです。
また、歯磨き粉を使い続けることにより、よりプラークをつきにくくするということもわかっています。ここでも、歯磨き粉を使った方がよいという結果が出ていました。
歯磨き粉をつけずに歯磨きをし続けると、使用しているときよりもプラーク除去率は落ちるし、プラークがつきやすくなるということですね。
歯磨き粉の薬剤効果を得られない
市販の歯磨き粉には「フッ素塗布」「知覚過敏予防」「歯周病予防」などたくさんの薬用成分が含まれています。歯磨き粉を使わなければ、これらの薬剤効果は得られません。
特に、フッ素は虫歯予防に欠かせない成分です。フッ素には以下の3つの効果があります。
- ・歯の再石灰化を促進する:食事などで酸性に傾いた歯の表面を修復し、初期の虫歯を元に戻そうと助けます。
- ・歯質を強化する:歯の成分と結びつき、酸に溶けにくい強い歯をつくります。
- ・虫歯菌の活動を抑制する:虫歯菌が出す酸の量を減らし、虫歯になりにくい環境を整えます。
これらの効果は、フッ素入りの歯磨き粉を毎日使うことで最大限に発揮されます。歯磨き粉を使用しない場合、この重要な予防効果を自力で得ることは難しいでしょう。
また、知覚過敏がでている人は歯の表面に成分で膜を作るような歯磨き粉を使うと痛みが減少しますし、歯周病が進行しつつある方は歯周病予防の歯磨き粉を使うことで、症状の軽減が期待できます。
歯が健康であれば歯磨き粉の薬剤効果は不要ですが、何らかの不具合がある方は、成分入りの歯磨き粉を使うことで症状が軽快することが認められています。
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歯の着色が落ちない
普通に暮らしていれば、歯が着色される機会はたくさんあります。コーヒーや紅茶、ワインなどの飲料物、タバコ、ガムなどさまざまなものが原因で、歯は黄色く染まっていきます。
歯磨き粉でホワイトニング効果が含まれているものは、毎日つく着色を落としてくれます。白い歯は健康的で清潔感を演出するもの。歯磨き粉を使わなければ汚れは落ちても着色を取ることはできないため、ケアをしていても歯の黄ばみが気になってしまうかもしれません。
口臭対策ができない
口臭対策も歯磨き粉を使えば可能です。歯磨き粉には、ミントなどの香料だけでなく、口臭の原因菌を殺菌する成分や、口臭をマスキングする成分が含まれています。たとえば、ラウリル硫酸ナトリウムなどの成分は、口の中を洗浄することで口臭を一時的に抑えます。
口臭の原因は食べたものだけでなく、歯周病や舌の汚れ、内臓の不調などさまざまですが、歯磨き粉を普段から使っていればある程度の対策が可能です。
歯磨き粉を使わない方で口臭が気になるという場合は、別に口臭対策をする必要があります。
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殺菌・抗炎症成分が不足する
前述したように、歯磨き粉の中には、虫歯だけでなく歯周病の予防に特化した成分も含まれています。歯周病は、歯茎の炎症や出血を引き起こし、進行すると歯が抜け落ちてしまうこともある病気です。何と、日本人の成人の8割が歯周病になっており、日本の国民病とも言われているんですね。
以下は、歯磨き粉に含まれる代表的な薬用成分です。
- ・イソプロピルメチルフェノール(IPMP):歯周病の原因菌を殺菌する効果がある
- ・トラネキサム酸・グリチルリチン酸:歯茎の炎症を抑え、出血を予防する効果がある
歯周病は、自覚症状がないまま進行することが多いため、これらの成分が配合された歯磨き粉を毎日使用することは、セルフケアとして非常に有効です。歯磨き粉を使わない場合、こうした殺菌・抗炎症成分による予防効果を得る機会を失うことになります。
大切なのは磨き方! 歯磨き粉の使用の有無はどちらでもOK

歯磨き粉を使わないメリット・デメリットから考えると、基本的には「歯磨き粉は使った方がよい」と言えるでしょう。
ただし、それには大前提として「正しく磨いていること」が必要です。歯磨き粉を使っていても使っていなくても、歯の汚れが落ちていなければ、結局虫歯や歯周病などトラブルは起こります。
泡立ちを抑えられる発泡剤が少なめの商品をおすすめしますが、複数の効果がある歯磨き粉を上手に使い、口内ケアをしっかりとしていきましょう。
正しい歯磨きの仕方
歯磨きの仕方を習ったことがある人は、実はあまりいません。そのため間違った磨き方をしている可能性も高いので、一度確認しておきましょう。
正しい歯磨きのポイントは次の通りです。
- ①1カ所を20回以上、力を入れずに磨く
- ②歯ブラシの毛先は垂直に歯の面に当てる
- ③おもりにのせれば150~200g程度の軽い力で動かす
- ④歯ブラシは5mm程度に小刻みに動かす
- ⑤奥歯は歯ブラシを斜め横から入れ、細かく動かし1本ずつ磨く
- ⑥歯と歯ぐきの境目は歯ブラシを斜めにして毛先を当てる
- ⑦前歯の裏は歯ブラシを立てて優しくこする
なお、やってみたけれどこれでいいのかわからないという場合には、歯科で指導を受けられます。歯科に行き相談してみましょう。
歯ブラシは1カ月程度での交換がよいとされています。口の中には細菌が数億存在しているため、きれいに見えても雑菌が蓄積していきます。歯ブラシは消耗品と割り切り、1カ月を目安にして交換しましょう。その際、もしも歯ブラシの毛先が開いていたら、それは磨くときに力が入っている証拠です。毛先が開かないように力を抜き、優しくなでるような気持で磨いてくださいね。
デンタルフロスや歯間ブラシを併用する
歯ブラシだけでは、歯と歯のすき間や歯ぐきの間に残った汚れを完全に落とすことはできません。1984年の臨床報告が出て以来、一般的に、歯ブラシで落とせる汚れは全体の6割と言われています。そのため、デンタルフロスや歯間ブラシを必ず併用して使うようにしましょう。
デンタルフロスは前歯から奥歯まで全ての歯間に通し、歯の側面に沿わせながら上下に動かして汚れをかき出します。歯と歯のすき間が広い場合や、ブリッジ・矯正装置を使用している場合には歯間ブラシが有効です。
こうした補助清掃具を取り入れることで、むし歯や歯周病のリスクを大きく下げることができます。
子どもの仕上げ磨きは工夫する
小さな子どもは自分で上手に歯を磨くことが難しいため、保護者による仕上げ磨きが重要です。仕上げ磨きは寝かせ磨きの姿勢が基本で、子どもの頭を親の太ももの上にのせると口の中が見やすくなります。
歯ブラシは小さめのヘッドを選び、奥歯のかみ合わせや歯と歯の間を丁寧に磨きましょう。嫌がる子どもには「数を数えながら磨く」「好きな音楽を流す」などの工夫をすると、習慣づけがしやすくなります。乳歯の段階から正しい磨き方を身につけることは、生涯の歯の健康につながります。
歯磨き粉を使わないことに関するよくある質問
では、歯磨き粉を使わないことに関する質問とその回答をみていきましょう。
- ・Q1. 歯磨き粉を使わないと、虫歯になりやすくなりますか?
- ・Q2. 口臭が気になるときは、歯磨き粉は使わない方が良いですか?
- ・Q3. 子どもに歯磨き粉を使わせるべきか迷っています。
- ・Q4. 歯磨き粉の研磨剤で、歯は本当に削れるのですか?
Q1. 歯磨き粉を使わないと、虫歯になりやすくなりますか?
A. いいえ、必ずしもそうではありません。虫歯の原因は歯磨き粉の有無ではなく、プラーク(歯垢)の磨き残しです。歯磨き粉を使わなくても、歯ブラシで丁寧にプラークを落とせば、虫歯のリスクを減らせます。
Q2. 口臭が気になるときは、歯磨き粉は使わない方が良いですか?
A. 口臭の原因には、歯周病や舌の汚れなど様々ありますが、歯磨き粉の多くは口臭を一時的にマスキングする効果があります。口臭が気になる場合は、口臭予防成分の入った歯磨き粉の使用や、舌クリーナーの併用をおすすめします。また、口臭の根本的な原因を探るためにも、歯科での定期検診が重要です。
Q3. 子どもに歯磨き粉を使わせるべきか迷っています。
A. 子どものうちは、フッ素配合の歯磨き粉の使用が推奨されています。フッ素は歯質を強化し、虫歯を予防する効果が高いためです。ただし、子どもが歯磨き粉を飲み込んでしまう恐れがある場合は、少量の使用にとどめるか、フッ素塗布を定期的に歯科医院で行う方法もあります。
Q4. 歯磨き粉の研磨剤で、歯は本当に削れるのですか?
A. 研磨剤は、歯の表面に付着した着色汚れなどを落とす効果がありますが、過度なブラッシングや、研磨剤の粒が大きい歯磨き粉を長期間使い続けると、歯の表面(エナメル質)を傷つける可能性があります。これにより、知覚過敏を引き起こすこともあるため、磨き方や歯磨き粉の選び方には注意が必要です。
歯科医から見た「歯磨き粉なし」について

歯科医としての立場からお伝えすると、これは「歯磨き粉なし=良くない」という単純な話ではありません。この記事でお伝えしてきた通り、歯磨き粉はあくまで補助的な存在であり、主役はあくまでも「歯ブラシによるプラークコントロール」です。実際、歯磨き粉を使わなくても、正しいブラッシングを行えば口腔内を清潔に保つことは可能です。
歯磨き粉にはフッ素や殺菌成分、歯周病や口臭対策に有効な成分が含まれているため、決して不要なものではありません。特に、虫歯になりやすい方や歯周病のリスクが高い方、口臭が気になる方には、歯磨き粉を上手に取り入れることをおすすめしています。
状況や体質に合わせての使い分けがおすすめ
大切なのは「どんなときに歯磨き粉を使うか」という視点です。
たとえば、朝は口臭予防を目的にミント系の歯磨き粉を、夜はフッ素配合の虫歯予防タイプを使う、といった使い分けが効果的です。
体質や生活習慣に応じて柔軟に選ぶことで、より効果的な口腔ケアが可能になるでしょう。
歯科での定期健診やクリーニングを受けよう
どれほど丁寧に歯磨きをしても、どうしても落としきれない歯石や細菌のかたまりは存在します。そのため、歯科医院での定期健診やプロによるクリーニングは欠かせません。
セルフケアだけに頼るのではなく、歯科医や歯科衛生士のチェックを定期的に受けることで、虫歯や歯周病を早期に予防・発見できますよ。
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歯は正しく磨こう! 歯磨き粉は好みに合わせて使ってもよい
歯をきれいにするためには、歯磨き粉を使うかどうかはあまり重要ではありません。歯磨きの目的は歯の汚れを落とすことなので、ブラシを使って正しく磨くことが最も大切です。
とはいえ歯磨き粉には多くの薬効があるため、自分が欲しいと思う効果がある場合は積極的に使うといいでしょう。ただし使う場合には泡や爽快感に惑わされないようにして、3分間を目安にしっかりと磨いてくださいね。
歯磨きの方法など、疑問点があれば歯科へ相談が近道です。口内トラブルが起こらないように、ぜひ歯科の定期健診にも通うようにしましょう。







