完全に埋没or横向きの親知らずは抜歯すべき? 歯科医が教える放置リスクと治療法
こんにちは、秋田のハピネス歯科クリニック 大久保です。今回は、親知らずについて、特に埋没していたり完全に横向きになってしまっている親知らずについて解説します。
親知らずが横向きに生えてきた場合には、多くのリスクがあります。そのために抜歯するのですが、ほとんど埋まっている親知らずを抜くにはどうするのだろうと心配になる方もいるでしょう。
そんな方のために、ここでは親知らずの基本的な情報と、横向きに埋没した親知らずを放置すると起こるリスク、その抜き方などを紹介します。
先に情報を知っておくことで恐怖を和らげ、歯科でスムーズに治療してもらってくださいね。
埋没している親知らずとは? “完全に埋まっている”かどうかで治療法が変わる理由
親知らずとは「親が知らない間に子供に生えてくる最後の永久歯」のこと。親知らずは愛称のようなもので、正式名称は「第三臼歯」です。「智歯」と呼ばれることもありますよ。
他の歯と同じように真直ぐに生えていれば問題はないのですが、顎のサイズや人が持つ悪癖などにより、多くの場合に親知らずは真直ぐ生えません。そして問題となるのは、横向きに埋没した親知らずです。
横向きの親知らずが厄介な理由は、ひとつ前の奥歯を押して歯並びに悪影響を及ぼす原因となること、そしてケアがしにくいため、いずれ大きなトラブルを招く恐れがあることなどです。
ただし、親知らずがたとえ横向きでも完全に骨に埋没している場合は上記のようなリスクはほぼありません。歯が完全に骨の中に埋もれている限りは細菌の影響が及ばず、虫歯や歯周病になる恐れがないからです。
もしも少しでも親知らずが歯茎から頭を出している場合や痛み・腫れなどの症状がある場合には、きちんと対応することをおすすめします。
歯科の定期健診で発見できますので、数年歯科に行っていないという方はできるだけ早く歯科を受診してくださいね。親知らずによって引き起こされるトラブルは非常に厄介であるため、見つけ次第対処するようにしましょう。
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横向きに埋没した親知らずの放置による3つのリスク
親知らずの存在パターンは、以下の3つに分けられます。
- ・まっすぐ生える
- ・斜めに生える
- ・横向きに埋まっている
前述した通り、真直ぐに生えていて自分できちんと歯磨きができるのであれば問題ありません。そして、横向きであっても骨に完全埋没している場合は、すぐに抜歯はせず経過観察となるでしょう。
トラブルが発生しやすいのは、横向きに生え少しだけ頭を出した状態の親知らずです。以下の3つが代表的なリスクです。
- ・虫歯になり隣の歯にも感染する
- ・口臭が出る
- ・歯並びが悪化する
虫歯になり隣の歯にも感染する
親知らずは一番奥にあるため見えにくく磨きにくく、どうしても歯垢が溜まります。自分では磨けているつもりでも実は汚れが取れていないことは多く、健診でお伝えすると患者さまが驚かれることも珍しくありません。
さらに、親知らずと隣の奥歯との隙間があればそこに汚れがたまり、菌が増殖して虫歯になるのです。ケアしにくい場所であることから虫歯が進行しやすく、親知らずと隣の歯の両方が虫歯になります。
口臭が出る
虫歯になるのと同時に、口内の細菌が吐き出したガスによって口臭が発生します。虫歯が進行すればするほど匂いはきつくなり、口を開けると強烈な悪臭が漏れるため、人付き合いなどに影響が出るケースもあるでしょう。
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歯並びが悪化する
横向きに埋没している親知らずによって隣の第二臼歯が押され、それが次々に重なることで前歯まで影響し、歯並びがガタガタになります。
歯科矯正でそれを直しても、問題の根源である親知らずはまた押し続けるため、再び歯並びが乱れることになってしまいます。歯並びを美しくしたい場合は、親知らずの抜歯は必須です。
また、歯並びが悪くなるにつれて嚙み合わせも悪くなってしまいます。かみ合わせが悪くなると食物をしっかり噛めなくなり、胃腸に負担がかかるように。胃腸への負担は、やがて全身の健康にも悪影響を及ぼすようになるでしょう。
完全に埋没した親知らずは抜くべき? 抜歯が必要になる2つのケース
抜歯の処置が必要なのは、以下2つの場合です。
- ①親知らずやその隣の奥歯に痛みがある場合
- ②周辺の歯茎が腫れている場合
つまり、痛みや腫れといった症状が出ている場合ですね。症状があるということは、すでに細菌感染によって炎症を起こしていると考えられるので、抗生物質も使いながら治療していきます。
しかし、横向きに生えていても完全に埋没しており、歯茎表面にまったく頭を出していない場合もあるでしょう。そのケースではすぐに抜歯とはなりません。現状何の違和感もなければ、そのまま様子を見ます。これは前述したように、歯が完全に骨の中に埋もれている限り細菌の影響が及ばず、虫歯や歯周病になるリスクがないからです。
ただし、歯茎や骨の中に完全に埋もれている場合でも、嚢胞や腫瘍ができるリスクはあります。これらは放置すると顎の骨に悪影響を及ぼすことがあるため、嚢胞や腫瘍がCTなどで確認された場合は抜歯が推奨されます。
また、完全に埋まっておらず一部頭が出ているなどのケースでは、隣の歯に悪影響を及ぼすリスクがあるため、将来的には抜歯を検討する方がよいでしょう。
横向きに埋没した親知らずの抜き方
では、横向きに埋没している親知らずの抜き方についてみていきましょう。歯科での抜歯の過程は、以下の通りです。
- ・麻酔をかけて歯茎を切開する
- ・骨を削って埋没した親知らずの冠部分を出す
- ・歯冠と歯根を切断して分離し歯冠を除去
- ・歯根を抜く
- ・抜いた穴を軽く洗浄し、血で満たしてから歯茎を縫合する
それぞれについて説明しますね。
①麻酔をかけて歯茎を切開する
歯茎や骨の切開が必要になるため、必ず麻酔をします。
局所麻酔(浸潤麻酔)が十分に効いていることを確認してから、埋没した親知らずの歯茎をメスで切開します。骨膜剥離子を使って歯茎を左右に開き、親知らずを覆う骨と歯冠の一部を確認します。
麻酔の種類や効果時間については以下の記事をどうぞ。
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歯医者の麻酔はいつまで効いている? 麻酔の種類や注意点を紹介
②骨を削り親知らずの冠部分を出して歯根と分離・歯冠除去
完全に骨の中に埋まっている親知らずの歯冠部分は骨でおおわれているため、まずは骨を削らねばなりません。骨切削用バーという道具を使い、骨を削って親知らずの歯冠部分を露出させます。
骨を削る量に応じて術後の腫れのレベルが変わるため、このとき歯科医はできるだけ削る骨を少なくする必要があります。
親知らずが真横に埋まっていることから、多くの場合、隣の第二臼歯が邪魔をして一気に引き抜くことはできません。そのためまずは見えている部分の親知らずを真ん中で切断し、歯根を残して歯冠部分を先に除去します。
③歯根を抜く
続いて歯根を抜くために、ヘーベルやルートチップと呼ばれる器具を使って歯根を脱臼させます。
このとき、下歯槽管(下顎の神経)と親知らずの歯根との距離を的確に測ることが大切です。抜歯のさいに下歯槽管を傷つけないよう、細心の注意を払います。
④抜いた穴を軽く洗浄し、血で満たしてから歯茎を縫合する
抜歯でできた穴を生理食塩水や次亜塩素酸水で軽く洗浄し、奇麗にしてから穴を血液で満たします。
ここで大切なのは穴を十分な血液で満たすことです。血液が足りないとドライソケット(※)と呼ばれるものができ、術後4日程度で夜も眠れないほどの激痛が発生する可能性があります。
※ドライソケット:傷口に血餅が溜まっても量が足りず、血餅が取れてしまって骨が見える状態になること。血餅は2〜3週間で肉芽組織になり、2〜3カ月で新しい骨や神経を作る。
ドライソケットを作らないため、血液の量が足りないと感じたら周囲をひっかいて出血させます。
歯茎を縫合して、約1週間後に抜糸です。術後1週間以内に激痛がなければ、ドライソケットはできていないと判断できます。
埋没した親知らずの抜歯費用目安・所要時間
親知らずの抜歯にかかる費用は、親知らずがどのような生え方をしているかによって異なります。
斜めや横向きに生えている場合、そして埋没している場合は以下が費用目安です。
- ・保険診療:3,000~5,000円
- ・自由診療:10,000~20,000円
ここに別途、診療費、検査費、消毒や抜糸費、麻酔代、薬代などがかかります。
費用が高くなるのは、抜歯が困難になるうえにレントゲン撮影なども行うためです。
抜歯の所要時間は一般的に30分ほどですが、抜歯が困難な状態であれば1時間以上かかることもあります。また、たとえば一気にすべての親知らずを抜歯するケースなどは全身麻酔をすることもあり、入院が必要です。
治療中・治療後の不安や負担を軽減するハピネス歯科の工夫
親知らずの抜歯には麻酔が必要ですが、中には麻酔の注射が怖い、痛みが心配という方もいらっしゃるでしょう。
ハピネス歯科では、痛みに配慮した麻酔方法を実施しています。
- ・クリーム状の麻酔薬による表面麻酔
- ・注射針のない器具による麻酔
- ・電動麻酔による麻酔
いつ麻酔をしたのかわからなかった、と患者様にはよく言われています。安心して来院くださいね。
また、術後の痛みへのケアもしっかり行っています。なるべく患部に負担を与えない治療にプラスして痛み止めも処方します。ご不安な点がある方は、どうぞ遠慮せずにいつでもご相談ください。
抜歯しない選択肢と経過観察の場合
横向きに埋まっている親知らずであっても、すぐに抜歯が必要とは限りません。痛みや腫れなどの症状が出ておらず、CT検査などで周囲の神経や歯に悪影響を与えていないことが確認できれば、「経過観察」を選ぶこともあります。
抜歯しないことが検討されるケース
抜歯ではなく経過観察がすすめられるのは、以下のようなケースです。
- ・親知らずが骨の中に深く埋まっており、神経や血管に近く抜歯リスクが高い場合
- ・年齢が高く、抜歯による負担が大きいと判断される場合
- ・周囲に炎症や虫歯の兆候が見られず、完全に埋まっていて動く気配もない場合
このような状況では、無理に抜くことでかえってリスクが生じる可能性もあるため、慎重な判断が必要です。
経過観察中の過ごし方と注意点
経過観察を選んだ場合でも、定期的なチェックは欠かせません。
特に親知らずの位置や角度によっては、将来的に周囲の歯に影響を与えることがあるため、半年〜1年ごとのレントゲンやCT撮影での確認が望ましいとされています。
また、以下のような変化があった場合は、速やかに歯科を受診しましょう。
- ・親知らずのあたりに違和感や軽い痛みが出てきた
- ・口が開きにくい、腫れやすいなどの症状がある
- ・虫歯や炎症の兆候が出てきた
将来的に抜歯が必要になる可能性もあることを理解しつつ、医師と相談しながら定期的な経過観察を続けることが大切です。
抜歯後の経過と回復までの流れ
横向きに埋まった親知らずの抜歯は、一般的な歯の治療に比べると体への負担がやや大きく感じられるかもしれません。ただし、多くの方は数日〜1週間ほどで回復されており、過度に心配する必要はありません。
では、術後の経過と回復の目安をご紹介しますね。
痛みや腫れのピークはいつ?
親知らずの抜歯後は、多くの場合、1〜2日目にかけて痛みや腫れがピークになります。これは体の自然な反応であり、炎症や内出血によって一時的に頬がふくらんだように見えることもあります。
ただし、3日目以降になると、徐々に腫れや痛みは落ち着いてくるのが一般的です。必要に応じて処方された鎮痛薬を使用し、安静に過ごすことでスムーズに回復していきますよ。
また、当院ではできる限り痛みや腫れを抑えるための工夫を行っていますので、術後も安心してお過ごしください。
日常生活に戻れるのは何日後?
痛みや腫れの程度には個人差がありますが、軽い作業や事務仕事などであれば、早い方は翌日から普通に生活できます。ただし、お顔の腫れが目立つ場合や体調がすぐれないときは、無理をせずゆっくり休むようにしてください。
腫れが完全におさまるまでは1週間ほどを目安に考えておくと安心です。大切な予定がある場合は、事前にスケジュールの余裕を持って治療日を決めるようにしましょう。
注意すべきポイントは?
抜歯後の回復をスムーズに進めるためには、いくつかの注意点を守ることがとても大切です。傷口の治りを妨げたり感染のリスクを高める原因になったりするため、以下のような行動は避けてください。
【強いうがいをしない】
前述の「④抜いた穴を軽く洗浄し、血で満たしてから歯茎を縫合する」で説明した通り、抜歯後は血のかたまり(血餅)ができることで傷口がふさがっていきます。強いうがいをするとこの血餅が取れてしまい、治りが遅くなるだけでなく強い痛みを引き起こすこともあります。
【飲酒・喫煙は数日間控える】
アルコールやタバコは血流に影響を与え、傷の治りを悪くする可能性があります。術後3日〜1週間程度は控えましょう。
【処方された薬はきちんと服用する】
痛み止めや抗生物質は、痛みを抑えたり感染を防ぐために必要です。自己判断でやめたりせず、指示通りに飲み切るようにしましょう。
また、もし強い痛みや腫れが長引く、出血が止まらない、口が開けにくいなどの症状が続く場合は、早めに歯科へご連絡ください。
横向きの親知らずに関するQ&A
では最後に、多くの方が持つ疑問や不安にお答えしましょう。
- ・Q①:親知らずの抜歯は痛いですか?
- ・Q②:CT検査は絶対必要ですか?
- ・Q③:親知らずを抜くと顔が変わるというのは本当ですか?
- ・Q④:完全に埋没している親知らずはいつ抜くのがよいですか?
- ・Q⑤:親知らずの抜歯後、気を付けることは何ですか?
Q①:親知らずの抜歯は痛いですか?
周囲の歯茎が腫れている場合など、何等かのトラブルが発生している場合は、抜歯後に痛みが残ることがあります。また、横向きに骨に埋まっている場合は骨を削る必要があるため、痛みが増す可能性が高いでしょう。
しかし、施術中はしっかり麻酔をかけますし、痛み止めも処方されますのであまり心配せずに受けてください。
Q②:CT検査は絶対必要ですか?
A:親知らずが骨や神経とどのように接しているかを3Dで把握するため、CT撮影がとても役立ちます。
通常のレントゲンでは見えにくい、歯の根の向きや神経との距離なども、CTなら三次元で確認できます。これにより、抜歯が本当に必要かどうかの判断がしやすくなります。
当院ではCT撮影が必要と判断された場合、秋田大学口腔外科などの医療機関にご紹介し、撮影していただいています。CTの結果をもとに、安全で適切な治療をご案内しますのでご安心ください。
Q③:親知らずを抜くと顔が変わるというのは本当ですか?
親知らずがなくなったことによって骨や筋肉が痩せ、小顔に見えるようなことはあるかもしれません。ただし個人差がありますし、美容整形のような見た目の変化はないと考えておいてください。
Q④:完全に埋没している親知らずはいつ抜くのがよいですか?
親知らずが何か悪さをしている場合は、炎症を落ち着かせてからすぐの抜歯となるでしょう。現在はまだ何も悪さをしていないという場合は、20歳前後が抜歯のタイミングと言われています。
20歳前後はまだ親知らずが柔らかくて抜きやすいこと、若いので抜歯後の回復が早いことが挙げられます。
Q⑤:親知らずの抜歯後、気を付けることは何ですか?
親知らずの抜歯後は、しばらく安静にして激しい運動やお風呂は控えましょう。また歯ブラシや舌で抜歯箇所を触らないようにしてください。
もちろん禁酒・禁煙です。
以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
【関連記事】親知らずの抜歯から完治までに気を付けることについての記事はこちら
親知らずの抜歯から完治までは5つのことに気を付けよう
完全に骨に埋まっている場合を除き抜歯が推奨! 歯科に相談しよう
奥歯の辺りが痛くなったり歯茎が腫れていたりすれば、親知らずのせいかもしれません。
親知らずが横向きに生えているケースでは、完全に骨の中に埋没していて痛みなどの症状が何もないとき、もしくは抜歯のリスクの方が高いとき以外は抜歯をします。隣の歯を押して歯列を乱したり、汚れが溜まって虫歯や歯周病になるケースが多発するからです。
親知らずは真直ぐに生えていても、上の歯とかみ合わなければ抜歯となることもあります。トラブルになる前に抜歯するというのが基本的な考えであると、ぜひ知っておいてくださいね。